チャート式 遊戯王B 巻頭言 ゲール・ドグラという男

生徒: 先生。俺、自分はなんて不幸な人間なんだろう、って近頃思う。
ズー先生: どうしたの?何かあったの?
生徒: 俺って、何やってもイケてないんだよ。遊戯王でも、毎日一生懸命デッキ調整してるのに勝てないし、テストだって、自分ではかなり勉強したつもりでもあまりいい点とれない。山本なんかさ、ときどき制限カードチェックさぼってるのに連勝だし、成績だって俺よりいいし、顔もいいから女の子にもモテるしさ。やっぱ、何だかんだ言ったって、世の中って不平等にできているんだよ。そう思わない?先生。
ズー先生: 何言ってんのよ。あなただってね・・・
生徒: 『きっと、いい所があるはず。一生懸命ガンバレば、いつか必ず報われるわ』でしょ。大人はみんなそう言うけどさ、そんなの綺麗事だよ。ごまかしだよ。
ズー先生: 《ゲール・ドグラ》っていうカード、知ってる?
生徒: 知らない。
ズー先生: 第1期のブースター6の起動効果モンスターカードなの。ほら、《デビル・フランケン》って習ったでしょ。「5000ライフポイントを払う。自分の融合デッキから融合モンスター1体をフィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。」実は、このように、ライフコストが5000も必要なの。それで、《ゲール・ドグラ》っていう人はね、「3000ライフポイントを支払う事で、自分の融合デッキからモンスターを1体墓地に捨てる事ができる。」ということを起動効果にもった人なの。しかも、第1期のときにね。
生徒: すごいね、その人。融合モンスターを特殊召喚するんじゃなくて、融合モンスターを墓地に送ることを思いついたんだ。
ズー先生: そう。でも、その人ね、使われなくなったの。ルールを改正されて。
生徒: へぇー・・・
ズー先生: 《ゲール・ドグラ》の人生は、ものすごく波瀾万丈だった。デュエルでは問題カード扱いで、「いつもつまらないことにライフを使ってデュエリストを困らせている」「デュエルでは墓地に送った融合モンスターを特殊召喚するために出てきてるだけだ」と言われ、それでデュエルの成績もさっぱりだったから、投入枚数を1枚減らされたりした。それでもね、唯一の味方が彼のお父さん、《デビル・フランケン》だった。お父さんは彼の才能を評価していた。でも、そのお父さんが、間違えてライフが5000のときに効果を使ってしまい、死んでしまうの。彼は、あるデュエリストに最初の大会に出たいと頼むんだけど、ヘボカードとして無視されてしまう。その後、何人かのデュエリストに同じことを試みるんだけど、なくされたり、相手にされなかったりと、結局、日の目をみることは一度もなかった。失望した彼は、当時の新フォーマット採用運動に加わり、牢屋に入れられる。で、牢屋から出た後、彼は、《E・HERO ランパートガンナー》っていう融合モンスターの女の子に熱烈な恋をするんだけど、それがきっかけで、彼は彼の効果で墓地に送ったモンスターは特殊召喚できないようにルールを改正され、人生に幕を閉じるの。彼の効果が認められ、「青眼の究極竜」を墓地に捨て「龍の鏡」から「究極竜騎士」、さらには「遠心分離フィールド」というコンボとして後世に語り継がれるようになったのは、彼が死んで何年もの歳月が流れた後の話・・・。
生徒: ふ〜ん・・・なんだか映画みたいな話ですね。
ズー先生: そうね。でも、本当にあった話よ。《ゲール・ドグラ》の人生を、悲惨だと思うか素敵だと思うかは、人それぞれの自由だけど。ただ、これは先生の想像なんだけど、ゲール・ドグラという人は、自分が幸せなカードか不幸なカードかなんて、あまり考えたりしなかったんじゃないかな。そんな「余裕」がなかったとも言えるわね。ただひたすらに、がむしゃらに、自分が好きなもの好きな人、自分が信じたもの信じた人に体当たりしていくしかない。それが、彼の駆け抜けた1ターンだった。
生徒: 俺、カッコイイと思うよ、その《ゲール・ドグラ》っていう起動効果モンスターカード。
ズー先生: 先生もそう思う。せっかく墓地に送った融合モンスターが除外されようと、せっかく3000ライフを払ったのにスキルドレインでチェーンされて無効にされようと、彼はとっても素敵なカードだったんだと思うわ。
生徒: ・・・ねぇ、先生?
ズー先生: なぁに?
生徒: 先生は、今まで、そういう素敵なくそカードに出会ったことあるんですか?